力ニ殻農法で安全な食物づくりを③
作物はなぜ病気に罹るのか
キチン・キトサン協会会員 赤松勇一
農薬漬けの作物が店頭に陳列
本来、安全で、美味しい作物を栽培して消費者に提供することが私達農業を営む者に与えられた使命なのですが、近年はどうしたわけか金儲け主義が先に立ち、むやみやたらにプレハーベストやポストハーベスト処置が行われ、農薬漬けの作物が街の店頭に陳列されているのが現実です。たしかに罹病した作物は見栄えが悪く商品価値がないことは誰にでもわかることです。商品価値を高めるために施用されるプレハーベスト、ポストハーベスト農薬は、人によって解釈の違いはあるでしょうが、皆さんにもここでじっくりとその良否を検討してほしく思います。そこで今回は何故作物は病気に罹るかを探究してまいりましょう。
人間でも健康な人は病気にならないのと同じで、作物でも健康な土壌の中で生育しようものなら絶対に病害に侵されるはずがないと私は考えています。現在は水耕プラント等の栽培形態も見受けられますが、一般的には作物栽培は土が培地です。
土の良し悪し(肥えている瘠せている)によって病気の出る度合いがかなり違います。そういう観点から考えてみますと、土はまさしく我々人間の生命を司る源でもあるわけです。
しかしながら、その土も近年の間違った農業のやり方(化学肥料の多投や農薬の乱用)により荒廃化、老朽化が余儀なく進行しているのが現状です。
都会で家庭菜園をいじっている人ならまだしも、一般の農家の間でさえ土に肥料(化学肥料) を施し消毒さえ適当にやるならば作物は立派に育ってくれるものと思っているのが現実の姿なのですから、今更私がとやかく申し上げても無駄かもしれませんが・・・。
私がまだ子供のころ、農村にはどこの家にも牛馬が飼われていました。そして今みたいに買った餌でなく、自分の畑で作った馬鈴薯や麦をはじめ野原の草を刈ってきて食べさせていたことを覚えています。
そのころはポストハーベスト処置などもちろんあるはずはなく、牛馬の糞は安心して畑へ施用できました。・・・知らず知らずして自然の流れを通して土づくりが行われていたのですね。
今の農法を昔の農法に戻すことが出来れば何も言うことはありませんが、そんなことは絶対に不可能ですから、私は微生物学見地から病害予防を目指しているわけです。
土を顕微鏡で眺めてみると、土の中には種々様々な微生物がものすごい数で生息しているのがわかります。しかもそれら微生物は絶え間なく生存競争をくり返し変化をしています。
ところで微生物は読んで字の如く極めて細かい生物ですので栄養分を摂取しなくては死んでしまいます。微生物の種類によって好む餌が違いますが、温度、湿度、有機物はいづれの微生物も繁殖するための絶対的必須要素です。
また徴生物の中にも人間社会と同様に善玉と悪玉が存在していて互いにしのぎを削り合っています。よく人間は体が酸性体質に傾くと病気になり易いといわれますが、土が酸性になると作物に病気が出てまいります。
これは悪玉微生物の大半が酸性を好むからなのです。それでは、悪玉微生物をおさえるには土のpH ( ぺーハー)をアルカリ性に近づければよいのかということになりますが、100%そうだとは言えません。
またpH の矯正に一般農法では消石灰の施用が行われていますが、私は推奨できません。石灰を施用すれば確かにpH は上がりますが、土の物理的構造が破壊されてしまい徴生物の住み家が壊れてしまいます。
私は微生物の中でも放線菌の増殖をはかり、その溶菌性を有効に応用することで悪玉微生物(フザリウム等の糸状菌等)を退治しようとの考えです。カニ殻のようなキチンを主成分とするものを多量に土壌に施用すると、これを餌にする溶菌性放線菌が圧倒的に増えてまいります。
しかし、放線菌の増殖をはかるには、ただカニ殻を田畑に投与するだけではだめで、放線菌の増える環境づくりが何よりも大切です。放線菌はpH の変化とともに増減や活動の範囲に大きく関連性をもつ性質がありますので、増殖させるためにはまず土のpH を上げる手だてをする必要があります。
前述の石灰施用によるpH矯正はかえって放線菌の住み家を壊すことになるので避けなければいけません。
私はカニ殻をはじめ骨粉・ナタネ油粕等を温醸発酵をしてから田畑へ施用しておりますが、温醸発酵することによって有機質肥料を中性~弱アルカリ性に改善し土壌の物理性を総体的(部分的や一時的ではなく)に体質改善をしていくためです。
温醸発酵のやり方については次回に述べさせてもらいますが、カニ殻等を温醸発酵して土壌に施用し、土の中に酵素を十分にとり入れる方式(有機微生物農法)を講じますと、好気性微生物である放線菌は激増してまいります。
このような土壌をつくることによって、作物も健康に育ち病気に罹ることがほとんどなくなることになります。
(出典:「キチン・キトサン協会誌」VOL.14より)
力ニ殻農法で安全な食物づくりを ~キチン・キトサン協会会員 赤松勇一
①稲作への力ニ殻(キチン・キトサン)の応用 ②ポストハーベストのはなし ③作物はなぜ病気に罹るのか
④温醸醗酵について ⑤コメづくりの基本として ⑥私のイネづくりのやり方
①稲作への力ニ殻(キチン・キトサン)の応用 ②ポストハーベストのはなし ③作物はなぜ病気に罹るのか
④温醸醗酵について ⑤コメづくりの基本として ⑥私のイネづくりのやり方
< 関連記事 >
■ 無農薬、カニ殻農法とは:名和川修(日本カニ殻農法研究会会長)
■ 生産者も健康でありたい~カニ殻肥料により無農薬栽培へ:羽生やい子(キチン・キトサン協会会員)
■ 有機農産物へのこだわり:内田光夫(キチン・キトサン協会会員)
■ 無農薬、カニ殻農法とは:名和川修(日本カニ殻農法研究会会長)
■ 生産者も健康でありたい~カニ殻肥料により無農薬栽培へ:羽生やい子(キチン・キトサン協会会員)
■ 有機農産物へのこだわり:内田光夫(キチン・キトサン協会会員)