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食物繊維としてのキトサン②~キトサン講座

1995年10月22日、東京商工会議所 東商ホールにて開催された「キチン・キトサン協会講演会東京大会」より、食物繊維と健康、キチン・キトサンの生理作用についての講演をご紹介いたします。(「キチン・キトサン協会誌」Vol.26より)

国立健康・栄養研究所応用食品部 食品栄養評価研究室室長
    農学・医学博士 辻啓介

結腸ガン、20年後に影響が出てくる / 日本人の血中コレステロールがどんどん上がっている / 水溶性の食物繊維、悪玉コレステロールが減ってくる / キトサン、コレステロールの低下作用が強い / キトサン摂取で便の重量も増える

結腸ガン、20年後に影響が出てくる

日本で、結腸ガンの死亡率は昭和42年から急激に増えていす。高齢化社会になりますと、ますます結腸ガンが増えて参ります。

それに対し、食物繊維は減り、油脂の摂取量がどんどん増えています。従来の疫学調査では、結腸ガンの死亡率と油脂の摂取量は平行して増えていて正の相関があり、食物繊維とでは逆相関、つまりマイナスの相関があるという位であまりはっきり計算せずに説明している事が多かったのです。

私共は、戦後41 年間を1年ずつ、食物繊維の摂取量計算をして、この間の相関をずっと求めてみました。食物繊維に関しては、昭和22年からずっと減ってきており、昭和39 年頃に18g位で曲がっています。この18gというのは、2.200kcal とっている成人男子だと、約21 ~22g の食物繊維摂取量になります。

安全率を考え、2.400kcalの人で食物繊維を24g とる必要があります。男性では1日に25g 、女性では20g。これは1.000kcal 当り10g という、今回の栄養所要量の基盤データになっています。

1年前の食事と結腸ガンの1年後の死亡率を求め、2年後、3年後と27年くらいまでずらして調べてみますと、油はもともと正の相関が高かったんですが、16年のところで一番高い数値になり、油の影響というのは16年くらいして出て来る事がわかりました。

食物繊維は、最初は負の相関を示しておりましたが、これを段々ずらしていきますと高い相関になり、ほほ直線になってきます。一番相関度が高いのは24年前です。

つまり20歳の頃の食物繊維の摂り方が、45歳のガン年齢になった時、結腸ガンの死亡率に反映してくるという様に非常に長い時聞がたってから影響が出て来るという事がわかってきました。

食物繊維というのは、今日明日摂った物が、すぐガンとか心臓病に影響するんじゃなく、非常に長くかかって影響するという事が、過去の日本人のこういう食生活と病気の関連を調べた結果からわかりました。

こういう結果は、日本しかデータを持っていません。このようにl年ごとにずらしていったというのは、我々の研究が最初です。この事から結腸ガンに対しては、20年後に影響が出て来る事がわかりました。

日本人の血中コレステロールがどんどん上がっている

ですから子供の頃から食事に十分注意して、野菜、果物、海藻を食べさせておかないと、後で影響が出て来てしまうのです。現状では、コレステロールの心配もしないで、卵も肉も食べなさいと言って、日本人の血中コレステロールがどんどん上り、アメリカ人より高くなっています。

アメリカではどんどん血中コレステロールは減って来ていますから、アメリカの様に減らさないといけません。結腸ガン、乳ガンでも大体同じ様な影響がある訳です。

心臓病ですと9年位後、糖尿病は7年位後に影響が出て来ます。ですから、病気の種類によって、食べ物の影響というのは、それぞれ違った時間的なズレが出て来るという事がわかりました。

コレステロールの摂取量と、飽和脂肪の摂リ方を減らさないといけない事になり、その効果が現れて来るのは実に10年位後と考えられます。つまり、食事の影響というのは、ずいぶん後で出てくるんだと考えないと、成人病対策はできない、という事がわかりました。

心臓に血液を送る冠動脈ですが、これが動脈硬化により、この様に血液が通る白い所以外が全部うずまる状態になりますと、心筋梗塞を起こして死んでしまう訳です。

動脈硬化が起こるしくみですが、最近では色々な説が発表されており、動脈の内膜にLDL というリポ蛋白が沈着して来るのが問題じゃないかと言われております。

体にコレステロールを送る乗り物、実はLDL というトラックで、このトラックがやって来ますと、細胞の中からLDL レセプター(アミノ酸がずっと繋がった蛋白質)という投げ縄の様な物が出て来まして、この蛋白質がLDL にくっつきます。

しかも、LDL の方にもそれに対応して、アポ蛋白B100という物が絡み付き、スルスルと細胞の中に取り込まれて行くのでございます。20年前に私がテキサス大学に留学した時に、お昼のカンファレンスがあり、その時に、LDL に放射性の鉄をくっ付けて、取り入れ口から取り込まれていく様子を電子顕微鏡で撮ったグループがいました。

これがゴールドスタインとブラウンの二人の研究者でした。ブラウンは、私達がいた研究室のデイエッチ教授の研究員でした。彼らはこのLDL レセプターというのを提唱して、ノーベル賞を受賞しました。

水溶性の食物繊維、悪玉コレステロールが減ってくる

現在、動脈硬化ができる原因として、血管の中に遊走細胞 (マクロファージ)が入って行きます。これが、アメーバ状になりLDL を取り込みます。

ところが、血管の中では抗酸化ビタミン、A 、E 、C 、カロチンがありますので酸化されませんが、内膜の下に行きますとそういう物が少なくて酸化されてしまいます。

酸化LDL というのが、このアメーバ状のマクロファージに優先的に取り込まれ、泡沫細胞となり、これが動脈硬化の始まりになるという説が有力になって来ました。

総コレステロールが異常に高くなりますと、心臓病が増えてきます。私どもはネズミにコレステロールを食べさせて、さらに水溶性のぺクチン、コンニャクマンナンを加えて与えますと、マンナンを食べさせていないネズミのコレステロールは非常に高くなります。

そしてそれに対して水溶性の食物繊維を加えますと、こういうコレステロールの血中レベルの上昇を抑制 するという事が分かってきた訳です。たった4日間ですが、コレステロールを食べさせますと、ネズミの肝臓は真っ白になってきます。

これはトリグリセリドや、コレステロールが沈着しているのです。その沈着を水溶性食物繊維は抑えるという事で肝臓にもコレステロールが溜まらないで脂肪肝を抑えるという事もわかってきました。

この様な動物実験で色々な食物繊維に効果があるとわかってきたんですが、アメリカのパルマ一等は、1日にペクチンを2 ~20g まで段階的に増やして人に与えると、血清コレステロールが下がってくるという事を初めて示しました。

また、リポ蛋白ですが、先程のLDL というのは悪玉ですが、善い方のHDL は末梢組織からコレステロールをエステル化して持って来ます。このHDL のコレステロールが高い程、動脈硬化は起こりにくいのです。

逆にLDL が増えますと、動脈硬化が増えて来るので、リポ蛋白代謝の面からも見ないといけないという事が言えます。HDL の方は末梢細胞からコレステロールを引き抜いて、肝臓に持って行き、胆汁酸にして利用しています。

ですから、血中コレステロールの余分な物は、増えないという事になる訳です。これはアロ達の研究ですが、水溶性の食物繊維を与えますと血清の総コレステロールは下がって来ます。善玉のLDL は、余り影響を受けないんですが、悪玉のLDL が減ってくるという事を証明しております。

キトサン、コレステロールの低下作用が強い

この様に食物繊維によって、人の総コレステロール、あるいはリポ蛋白代謝が改善されるという事が報告されています。余り水に溶けない繊維、フスマのような繊維は血清コレステロールは下がらないんですが、グアガム、ペクチン、サイリュウムなどの水溶性食物繊維は血清の総コレステロールが非常に下がる、しかもLDL コレステロールも下がる、便の中には胆汁酸とかコレステロールが排泄される事がわかってきました。

こういうコレステロールの吸収阻害という点や、そして糞中への排泄促進という点が、水溶性食物繊維のコレステロール低下作用のメカニズムではないかと言われてきた訳です。

また、最近では、大腸で発酵して出来たプロピオン酸という短鎖脂肪階がありますが、そのプロピオンが肝臓でコレステロールの合成を抑えるという事も言われております。そういう理由で、水溶性食物繊維の効果がでてくる訳です。

それから、最近日本でも、胆石が増えてきました。私たちはマウスにコレステロールを食べさせて、胆石を実験的に作る方法を確立致しました。

セルロースは余り効かないんですが、水溶性のペクチンを与えますと、10 匹中1 ~ 3 匹位しか胆石が出来ないという事と、胆嚢の中のコレステロール量も減少したままである事がわかりまして、水溶性の食物繊維は胆石も防ぐという事がわかりました。

キチンを脱アセチル化しますとキトサンになり、酸性状態で可溶化して、非常に変わった性質を示します。このコレステロール低下作用は、1978年に、菅野先生(九州大学農学部教授)によって、報告された成績(動物実験)です。キトサンにはコレステロールの低下作用が、非常に強いという事を世界で初めて報告されました。

肝臓中のコレステロールも良く減少するという事がわかったのでございます。私達も、1980年の学会で報告致しまして、血清総コレステロールの低下、対照の100 % に対して50 % の約半分に低下しておりますが、それだけじゃなくて善玉のHDL が非常に高い。それに対しまして、キチンの方はそれ程効果が無いという事を見い出しました。

菅野先生の発表に2 年程遅れただけでございます。HDL の上昇を発表したものでは、初めてではないかと思います。こういう動物実験はあったのですが、どうしてもネズミと人間では違うので、ある会社の人達と、日本獣医大学の先生達とご一緒に、ビスケットの中にキトサンを加えて、実験しました。

1 枚0.5g の有効性キトサンが含まれているビスケットを作り、それを食べるという実験です。被験者は若い健康な男性です。最初は、キトサンを含んでいないビスケットを食べさせ、その後キトサン入りのビスケットを3枚、6枚、そしてまたキトサンの入っていないビスケットを3 枚という様にして、血中コレステロールの変化、あるいは便の中の胆汁酸の排泄等を調べました。

キトサン摂取で便の重量も増える

そうしますと血液中の総コレステロールですが、キトサンを与えますと有意に総コレステロールが下がるという事がわかりました。しかもHD L コレステロールも上がる。このHDL コレステロールが下がるというのは、実験においては容易に差が出ない場合もありますが、若い男子学生の場合は、非常にきれいに効果が認められました。

便の重量もキトサンを与えている時には増える傾向を示しています。pH (酸性、アルカリ性の指数)は低下する傾向を示しています。この事から、キトサンというのは胆汁酸をくっつけるため、胆汁酸の合成が促進して、コレステロールが減ってきた事が、容易に想像出来る訳です。

そこで便の中の胆汁酸の排泄を調べてみますと、明らかにキトサンを与えている期間中は、胆汁酸の排泄が増えており、これはきっと、キトサンと胆汁酸が結合して出て来たのではないかと考えられます。又、大腸の中の腸内細菌にも若干の変化があったのですが、エネルギー源としてはそんなに使われていない事も調べております。

便の中に出た短鎖脂肪酸ですが、これも若干ですが、増える傾向を示しました。逆に悪い方の生成物として、フェノール、クレゾール、インドール、スカトール。これらの物質を知っている人だったら顔をしかめるくらい、臭い物です。便の臭みの成分ですが、こういうものはキトサンを与える事によって減っています。

それから、アンモニアとかサルファイドのような有害な物も減少しております。若い会社員のケースですが、他の実験でも総コレステロールが下がって(この場合HDLコレステロールはあまり変化がありませんでしたが) 、動脈硬化指数は改善されました。特にこの実験で興味深いのは、血中コレステロールが高い人は下がりますが、中位と低い人はそのままです。

低いと脳卒中の原因にもなるので、低い人が下がる必要は無く、高い人だけが下がるほうがいいのです。こういう点でもキトサンというのは非常に望ましい血中コレステロールの調節剤と言えるかと思います。

又、食物繊維はカチオン、アニオン等と結合する力がありますが、キトサンの場合は陽イオンですので、陰イオンの胆汁酸をくっ付ける力があります。そこで、試験管の中で、キトサンが胆汁酸の一種類であるコール酸をくっつける実験を3カ月間位、試行錯誤してやり、漸くこのデータが出ました。

蟹キトサンの方が、いかキトサンよりもはるかに良くくっつけるんですが、両方とも胆汁酸と結合するという事が、試験管の中で証明出来ました。もしも、こういう事が腸の中で行われますと、当然、腸の中の胆汁酸が減り、肝臓に戻ってくる胆汁酸が減ります。

そうすると、肝臓ではコレステロールから胆汁酸をどんどん作っていきます。それはどこから持って来るかといいますと、末梢組織ですから当然、血中コレステロールレベルも正常化されて、動脈硬化が起こりにくくなるという事になり、心臓病を防ぐ事にもつながると思います。


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