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食物繊維としてのキトサン①~キトサン講座

1995年10月22日、東京商工会議所 東商ホールにて開催された「キチン・キトサン協会講演会東京大会」より、食物繊維と健康、キチン・キトサンの生理作用についての講演をご紹介いたします。(「キチン・キトサン協会誌」Vol.25より)

国立健康・栄養研究所応用食品部 食品栄養評価研究室室長
    農学・医学博士 辻啓介

日本人の栄養摂取、最も欠乏しやすいのがカルシウムと食物繊維 / 水に溶けない食物繊維と水に溶ける食物繊維 / 物理化学的作用と生物学的作用 / 食物繊維と結腸ガンの間に逆相関がある

日本人の栄養摂取、最も欠乏しやすいのがカルシウムと食物繊維

本日は食物繊維の話から始まりまして、その中で非常に珍しい動物性の食物繊維のキチン・キトサンにつきましでも、私共、一部研究いたしましたので、その成績も含めてお話したいと思っております。

日本人の死亡原因の移り変わりですが、戦後まもない時期には、結核や肺炎でたくさんの方が亡くなっておりました。しかし、新薬の開発や栄養状態が良くなってきまして、段々低下しております。

それに替わりまして、非感染性の疾患の脳・血管疾患、ガン、心臓病などが増えてきました。ご承知のように、こういう病気というのは、栄養状態あるいは運動、栄養等によりまして起こる訳で、生活習慣の悪さから増えてきた疾患でございます。

そして、現在の死亡原因は、1位はガン、2位は心臓病、3位は脳卒中の順です。これらの病気の変遷というのは、食物繊維、あるいは脂肪の摂取等と非常に強い関連がございます。

そして今は飽食時代と言われ、人間は本能のままに食べております。人間は若干、本能が低下しておりますが、ネズミのような動物に、好きなエサを選んで食べさせますと、栄養条件を満たすように自分で工夫して食べます。

例えば、ビタミンB1という物は、ごく少量ですから、臭いも味も色調も無いのですが、それが不足しているエサは食べないで、ほんのわずか含まれている物をちゃんと選んで食べるという能力があります。

大正時代に日本では、脚気で数万人の人が亡くなっておりましたが、そういう時に本人も、まわりの人も白米をすすめて、余計にひどくしていた訳です。人間というのは、自分の本能で体に必要な栄養素は選べないんですね。

ですから、肉や魚等、動物性食品ばかり食べていますと、野菜、果物、煮物、海藻、キノコそして、特に主食のごはんやパンの摂取が減ってくるわけです。

一番欠乏状態になるのは、カルシウムと食物繊維です。カルシウムは牛乳や野菜を食べると良いのですが、昔から食べておりました、コンニャク、野菜、海藻等の食物繊維に富んだ食品というのは、最近では、摂取が段々減ってきております。

私が、この研究所に入った当初、400 匹位のネズミを飼って寿命実験をやっていたんですが、飼育しはじめて2 ~ 3カ月しますと全部死んでしまいました。

解剖しますと、胃の中にネズミの毛が固まっていまして、それに食べ物のカスが吸着して幽門部に詰まり、食べ物が小腸の方に行かないで死んでしまったのです。

それからは必ずエサにセルロースの繊維を加えて飼育するようになり、こういう事は二度と起らなくなりました。この結果、繊維というのは、非栄養素と言われておりましたが、実は、大変大切な物だと印象づけられた次第です。

結局、ネズミが毛を食べていたのは、繊維不足になったので、自分の繊維を供給したという事です。その結果、命を縮めてしまったのです。

水に溶けない食物繊維と水に溶ける食物繊維

食物繊維は、今までは、栄養素でないと言われていました。ビタミン、ミネラル、たんぱく質、脂質、糖質が五大栄養素と言われる物で、これだけ食べれば、必須栄養素は摂れるという事だったんです。

しかし、最近の栄養学では、段々、非栄養素と言われている物の中に重要な物があると分かってきました。特に、食物繊維ですね。

「1日20 ~ 25g 食物繊維を摂りましょう」という事で、食物繊維が第五次改定の日本人の栄養所要量の中に入ったという事は、これは栄養素と認められた事で、行政的にも、食物繊維の栄養的な位置づけが出来た訳です。

食物繊維とは、食物の細胞壁の硬い構成成分で、人の消化酵素で分解されない物です。ところが、段々研究が進んでいきまして、細胞の中や細胞間質等の繊維も入れようという事になり、1976年、ボルディングという人が、動物性の食物繊維も含めてはどうかと提案しました。

食物繊維を大きく分けると、水に溶けない食物繊維と、高分子の水溶性、低分子の水溶性の食物繊維に分かれます。植物性の物では、セルロース、へミセルロース、リグニン、カンテン等が不溶性です。

ペクチン、グアガム、アルギン酸ナトリウム等は高分子の水溶性食品。低分子のものは、高分子の物を酵素とか酸で分解したり、人工合成したものですね。動物性の物では、不溶性のキチンがありますが、キトサンになりますと、塩酸で可溶化するので、胃の中で水に溶けるという性質も出てきます。

又、動物性のたんぱく質では、難消化性のコラーゲンも食物繊維でして、これらに関しましても、コレステロールの低下作用があります。

摂取量に関しましては、昭和22年には27g でしたが、現在では17g と減っており、日本人の栄養所要量より3~ 8g 不足しています。これは、サツマイモ、大麦、米の摂取が減ってきたからです。

物理化学的作用と生物学的作用

次に食物繊維の各種生理作用ですが、物理化学的な作用と生物学的作用があります。この物理化学作用と言うのは、昔から良く知られていて、水に溶けると水を吸着してどんどんふくれ上がったり、粘度が高くなったり、色々な物と結合したり、ゲル化する作用です。

生物学的作用というのは、食物繊維が小腸を通り抜け、大腸に行きますと、腸内細菌が食べ物のカスを栄養源にして善玉菌が増え、腐敗菌が減ってくる事。

また、水溶性のビタミンB 群の生産、あるいは単鎖脂肪酸を作って、草食動物のエネルギー源になったり、消化器管の細胞分裂の促進をする事です。コレステロールを大腸の中で吸収の悪いステロールに変換してくれるとか、ガスが出来たり、pH が変化するという事もあります。

こういう物理的、化学的、生物的機能が一緒になって、咀しゃく効果、満腹感、胃内滞留時間や、消化吸収への影響、胆汁酸の分泌、腸肝循環、小腸形態と細胞分裂通過時間等の生理作用をもたらす訳です。

この物理的、化学的、生物的機能が色々組み合わさり、腸の疾患や代謝性疾患に良い影響を及ぼします。腸の疾患としては、便秘、静脈異常、虫垂炎、憩室-ケイシツ(腸に小さな部屋がたくさんできる状態)、それから大腸ガンですね。

代謝性の疾患としましては、高血圧、尿路結石、肥満、糖尿病、高コレステロール血症、心臓病、コレステロール胆石、虫歯などがあります。

従来の食物繊維の効果というのは、食べ物が、口から入って、小腸を通る時にいろんな栄養素の吸収阻害をするんじゃないかと言われていました。

最近になり、腸内微生物を介しまして発酵が行われ、いろんな物ができ、それが吸収されて、種々の生理作用を起こす事がわかってきました。

そして、先程申しました不溶性と水溶性では、ずいぶん性質が遠います。例えば、血清コレステロールに関しましては不溶性はあまり効かないが、水溶性の物はよく効くと言われておりました。

しかし、キトサンのように口に入れる前は不溶性ですが、これにも血清コレステロールの低下作用があり、本来の中性多糖から成る食物繊維とは若干違うという事もわかってきました。

大腸ガンのようなものは、不溶性食物繊維の方が効果が高いという事も知られておりますし、リグニンとかキトサンのように胆汁酸との結合能力が非常に強いものもある訳です。

食物繊維と結腸ガンの間に逆相関がある

食物繊維をたくさん食べているのは、米国では、菜食主義の団体SDA の宗教団体がありますが、彼らは、肉、アルコール、タバコをあまりやりません。そのため、ガン、心臓病、脳卒中の人が少なく、大変長命な方が多いそうです。

しかし、彼らの中でも掟を破って動物性の食品を食べる人がいる訳です。時に肉食、しばしば肉食ということになりますと、死亡率が、乳ガンの場合は2 倍、また、結腸ガン、心臓病でも非常に死亡率が高くなる。もちろん、食物繊維だけの効果ではありませんが、食物繊維が非常に関係していると言われています。

大変びろうな話ですが、古代の日本人のウンチの化石が福井県鳥井浜で見つかりました。昔の人は、非常に食物繊維をたくさん食べていて、便の量も多かった事がわかりました。

つまり、食物繊維の効果というのは、便の量を増やし、便秘を解消する。そして、体内にできた有害な物、食物中の有害な物を体外に排泄し、さらに種々の間接的な病気の予防をするのです。食物繊維というのは、水を程よく吸収し、便秘も防ぐのですが、下痢も防ぐという事がございます。

これには、便の中の水分含量が非常に重要なのですが、食物繊維を摂りますと、便の水分含量の高い人も低い人も、それぞれ80% 位のレベルに収れんして参ります。

このように食物繊維には、便の中で水分量を一定に保つ働きがあって、形良くバナナ状に成形する力があるのです。

食物繊維の足りている便の状態というのは、1日1回は出る。便量が多く、ウサギのフン状でもなく、水洗トイレに浮く状態です。浮くというのは、食物繊維が発酵してガスが分布し、その為に軽くなって水に浮く訳です。もし、20g 食物繊維を摂りますと、便の量は150g 位ですから、バナナ状で2 本位出る訳です。

また、1 987年アメリカの国立ガン研究所のグリーンワールドが、病気の原因を調べる疫学調査で信頼のおける論文40の調査をいたしましたところ、そのうちの8 割が食物繊維と結腸ガンの間に逆相関がある。

つまり、食物繊維の摂り方が少ないと結腸ガンが増えてくるという結果を示しました。それで、アメリカの政府、特にFDA でございますが、加工食品に、食物繊維を多く含む穀物、果物、野菜等は「ガンの危険性を減少しうる」と食品に書いても良いと認めました。


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