キトサンとダイエット～キトサン学術報告

やせたいと願う人々は、2 種類に分けられるようです。1つは、糖尿病や動脈硬化など肥満に伴う生活習慣病を予防したいと思う人々であり、他は、プロポーションが良くなりたいと願うやせ願望です。

プロポーションが良くなるためには、ウエストはやせ、ヒップはやせず、バストは太るといった部分やせが可能でなければなりません。いったいこのような部分やせは可能なのでしょうか。

特に、脂肪の腸管吸収を阻害して肥満を予防するキチン・キトサンやラクトスクロースでも、このような部分やせが期待できるのでしょうか。この疑問に答える前に、やせるという現象について、まず考えてみたいと思います。

脂肪細胞に溜った脂肪が、体の外に出て行くのがやせるという現象です。まず溜まった脂肪が脂肪細胞の中で分解され、脂肪酸とグリセロールになります。

この分解は、交感神経の末端から分泌されるノルアドレナリン、副腎髄質からのアドレナリン、脳下垂体前葉から分泌されるACTH等のホルモンによって引き起こされます。

脂肪は1ｇ当り9kcalのエネルギーをもっていますが、このエネルギーの90%は、脂肪酸が担っています。従って脂肪が分解され、脂肪酸とグリセロールとして、細胞の外に出ますが、脂肪酸の運命が特に問題になる訳です。

つまり脂肪が体の外に出るというのは、取りも直さず脂肪酸が体の外に出ることを意味する訳です。

脂肪酸が体の外に出る為には、筋肉で分解され、炭酸ガスと水になる必要があります。

炭酸ガスは呼気として、水は尿として体外に排出される訳です。このように、脂肪細胞における脂肪の分解と筋肉における脂肪酸の分解が同時に起ることによって、はじめてやせることができるのです。

そこでまず脂肪細胞における脂肪の分解について調べてみましょう。

脂肪細胞に蓄えられた脂肪は、つまんだりして分解される訳ではありません。リパーゼと呼ばれる酵素の触媒作用で分解されるのです。脂肪の表面にはレシチンやペリリピン等のタンパク質が存在し、一定の構造をもっています。

ノルアドレナリンなどのホルモンを脂肪細胞に作用させると脂肪の分解が高まりますが、問題は、ホルモンの作用の仕方です。

これまで、多くの研究者が、ホルモンがリパーゼに作用し、その働きを強めることによって、脂肪分解が高まると考えてきました。

米に酵母菌などの菌を加えて発酵させると甘酒になり、次に酒になります。菌から分泌される酵素によって、でんぷんがマルトースやグルコースに分解されると甘味が生じて甘酒になります。

グルコースがさらに分解されエタノールになると酒になるという訳です。これらは全て酵素の触媒作用によって生じる現象です。

体の中には、約10万種類の酵素が存在しますが、でんぷんに作用してマルトース(グルコースが2個連なったもの)にするのがアミラーゼと呼ばれる酵素であり、マルトースに働いてグルコースに分解するのがマルターゼです。

重要な点は、でんぷんやマルトースは、水に溶けているので、アミラーゼやマルターゼは自由に接触できることです。

従って、基質(でんぷんやマルトース)と酵素(アミラーゼやマルターゼ)との間の反応を左右するのは、基質の量や酵素の活性ということになります。酵素の活性(働き)に対して基質が充分であれば、反応を左右するのは酵素の活性のみということになります。

しかし、でんぷんのように水に溶けることのできない脂肪の場合は事情が変わってきます。脂肪を分解する酵素はリパーゼですが、水に溶けていない脂肪に自由に接触できる訳ではありません。

同じ脂肪量であっても、大きな油滴の場合と小さな油滴では、後者の方が油滴表面の面積が広いのでリパーゼはより多く接触することができます。また油滴表面にレシチン(卵の黄身などにあるリン脂質)が存在するとリパーゼは接触できなくなります。

脂肪細胞内の油滴の表面にはレシチンがあるので、リバーゼは自由に接触できないことに気付いたことが私を他の研究者とは違った考えに導いたのです。

私以外の研究者は全て、脂肪細胞にはリパーゼの活性に比べて、大量の脂肪があるのだから、ホルモンによる脂肪分解の促進は、リパーゼ活性の上昇によって引き起こされると考えたのです。

水に溶けたでんぷんに対するアミラーゼの分解作用と水に溶けていない脂肪を分解するリバーゼの作用を同じ様に考えたのです。脂肪にリパーゼは自由に接触できないという、しごく簡単な事実に気付かなかったのです。

しかし、1966年に私の説を発表して以来、ホルモンは、リバーゼに働くのではなく、油滴に作用し、その表面の性質を変えることで、リパーゼの接触が高まり、脂肪分解が促進するという私の考えに同調する研究者は未だ少数です。

私の説の同調者が少ない理由としては、色々考えられます。まず私の力不足です。人種偏見もあるでしょう。更に分子生物学の名の下に、酵素のみに注意が向けられた時代風潮もあります。

しかし、最大の理由は、遺伝子工学などの技術の進歩にはしゃいで、油滴にリバーゼは自由に接触できないという基本がおろそかにされたことだと思います。

健康食品にとっての基本は、客観的・科学的データです。私が折にふれ、科学的事実の必要性を口にしているのは、以上のような経験を踏まえてのことだったのです。

ホルモンによる脂肪分解の促進で生じた脂肪酸とグリセロールは、脂肪細胞の外に出て、血液によって運ばれます。グリセロールは、肝臓で代謝されますが、肝心の脂肪酸は、肝臓に行ったり筋肉で代謝されたりします。

運動をすると骨格筋のエネルギー需要が高まるので、脂肪酸は、筋肉内で分解され、エネルギーを発生すると共に、炭酸ガスと水になります。

しかし運動不足では、脂肪酸は肝臓でコレステロールや脂肪に変わり、血液に分泌されて高脂血症の原因になります。

よく運動でやせるのは効率が悪いなどという話がありますが、これは運動の効用を一面からしか見ていない妄言です。実は、運動の効用の最大のものは、脂肪酸を炭酸ガスと水に変えて体外に排出することなのです。

それでは、キチン・キトサンやラクトスクロースで、食事中の脂肪の吸収を抑えることで部分やせが可能なのでしょうか。問題はあるが可能なのです。脂肪細胞は存在する部位によって、脂肪の合成や分解の度合いが違っています。

内臓の脂肪細胞は皮下の脂肪細胞に比べて、脂肪の合成能は著しく高いことが知られています。従って、キチン・キトサンとラクトスクロースによって、脂肪の腸管吸収を阻害すれば、内臓の脂肪細胞の脂肪合成が最も強く影響を受け、いち早く低下することになります。

内臓の脂肪細胞に脂肪が溜まり過ぎると、糖尿病や動脈硬化を発症することが知られていますので、その予防になるという訳です。しかし、問題があるといったのはこの点です。

脂肪の吸収阻害によって、内臓脂肪細胞の脂肪合成が強く抑制され、バスト、ウエスト、ヒップ、太ももの皮下脂肪細胞の脂肪合成も低下しますが、ウエストだけをやせさせることはできないからです。

ホルモンによる脂肪分解にも部位による差があります。図1は、内臓の脂肪細胞として、副こう丸と腸管膜周囲、皮下の脂肪細胞として、ウエスト(腹部)と大腿部についてノルアドレナリンによる脂肪分解を比べた成績です。


皮下に比べて内臓の脂肪細胞で、ノルアドレナリンによる脂肪分解が著しく高いことが分かります。皮下でもウエスト(腹部)の方が大腿部より高いようです。

一般に、皮下の脂肪細胞では、ウエストの脂肪分解が高く、大腿部、上腕、バストの順になっているようです。つまり、運動やダイエットで、脂肪分解を促進するホルモンが血液を介して皮下の脂肪細胞に到達するとウエスト、太もも、上腕、バストの順でやせてくるということになります。脂肪分解の差には、リパーゼと油滴の両者が関わっていることが明らかになっています。

高い脂肪分解を示す内臓の脂肪細胞では、リパーゼの量が多く、油滴に含まれるリン脂質やタンパク質も皮下のそれとは異なっています。

脂肪細胞の脂肪の合成や分解に、部位による差があるといっても、プロポーションが良くなりたいと願う人々にとっては満足できるはずはありません。

ウエストや太ももを特にすっきりさせたいという願いが強いからです。この願いがかなえられるためには、ウエストや太ももの皮下の脂肪細胞だけに脂肪分解が起こる必要があります。

運動やダイエットでは、全身に平等に脂肪を分解するホルモンが行きわたり、程度の違いはあっても、内臓、皮下を含め全身の脂肪細胞で脂肪の分解が始まります。

ウエストや太ももだけをすっきりさせるのに、運動やダイエットは必ずしも対応できないのです。
脂肪の分解を引き起こすことのできるのは、ホルモンです。 このホルモンの中で、ある特定の場所だけに分泌されるのは、交感神経の末端から出るノルアドレナリンだけです。

つまり、ウエストや太ももの皮下だけにノルアドレナリンの分泌を促す方法があればよいのです。右腕の前腕から手掌にかけて5分間マッサージした後、左右の肘静脈から採血し、ノルアドレナリンを測ってみますと、マッサージをしなかった左腕の静脈血に比べて、右腕の静脈血が高値を示したのです。

これは、局所のマッサージによって、その部分のノルアドレナリンの分泌が高まることを示す成績です。 従って、ウエストや太ももをマッサージすることによってノルアドレナリンの分泌が増し、脂肪分解が高まる可能性があるのです。

更に、お茶や生薬に含まれるカフェインやその誘導体は、ノルアドレナリンによる脂肪分解を増強する働きがあるので、このような物質を含むクリームをマッサージの後に塗っておくのも良いと思われます。

しかし、ウエストや太ももの脂肪が分解されても、運動が伴わなければ、脂肪酸が体の外に出て行くことはできません。 従って、マッサージやクリームの塗布を寝る前にしたのでは、全く効果は期待できません。 出勤前の朝など、運動する前に行うことが大切です。

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