キトサンと血圧①~キチン・キトサン学術報告
キトサンの作用について、「キチン・キトサン協会誌」よりご紹介いたします。健康維持や栄養補給で、キトサン製品を飲用する際、その有用性については個人差があります。 また重篤な疾患のある方がキトサン製品を補助的に飲用する場合は、医師や医療機関と相談の上、ご使用ください。
● キトサンと血圧①
食塩による血圧上昇、ナトリウムか塩素か? / キチン・キトサンによる実験 / 食塩の中で血圧を上げているのは「塩素」
【 要点 】キチン・キトサンを食べると、食塩中の塩素(CL-)が腸から吸収されず、糞中に排泄される。その結果、アンジオテンシン転換酵素も活性化されず、アンジオテンシンⅡも多くならず、血圧も上昇しない。
食塩による血圧上昇、ナトリウムか塩素か? / キチン・キトサンによる実験 / 食塩の中で血圧を上げているのは「塩素」
【 要点 】キチン・キトサンを食べると、食塩中の塩素(CL-)が腸から吸収されず、糞中に排泄される。その結果、アンジオテンシン転換酵素も活性化されず、アンジオテンシンⅡも多くならず、血圧も上昇しない。
愛媛大学医学部医化学第2教室 教授
医学博士 奥田 拓道 氏
医学博士 奥田 拓道 氏
食塩による血圧上昇、ナトリウムか塩素か?
食塩が血圧を上昇させることは、よく知られています。腎臓などに異常はなく、血圧だけが高いという本態性高血圧症と呼ばれる患者さんの6割までが食塩制限で血圧が下がるといわれています。食塩は、ナトリウム(N a + ) と塩素(C L- )からできていますが、体の中では、N a+とCL-が別々に腸から吸収されます。従って、食塩が血圧を上昇させるといっても、N a + が上げるのか、CL-なのかが問題になります。
現在ではN a + が血圧を上げる犯人ということになっていますが、実は学問的にはこの問題に結着がついていないのです。それどころか、今世紀の初めには、CL-の方が血圧を上げる犯人だということになっていました。
しかし、1950年代に、N a+ 説を主張する学者のが受け入れられて今日に至っているのです。しかし現在でもN a+ 説とCL-説の決着はついていないのです。
一見簡単にみえるこの問題について決着がつかないのは、その実験方法に問題があります。多くの研究者は、N a + の影響をみるのにグルタミン酸ナトリウムやクエン酸ナトリウムを投与します。
また、CL-の影響を調べるのに塩化アンモニウムやリジン塩酸塩を動物に与えるのです。しかしこの様な方法では、N a + と一緒にグルタミン酸やクエン酸が与えられることになり、それらの影響の方が大きく、N a + 自身の作用を正確にみることができないのです。
キチン・キトサンによる実験
塩素の場合も同様です。それでは、N a+やCL-を単独に与えればよいように思われますが、残念ながらN a+ やCL-は、動物に経口投与できる状態では、単独では存在せず、必ず何かと結合しているのです。そこで私達は、あくまで食塩の形で動物に経口投与した後に、N a+ と結合して糞中に排地される食物繊維やCL-と結合して排世される食物繊維を用いて、N a+ かCL-かの問題に結着をつけることにしました。
N a + に結合する食物繊維は、自然界に数多くあり、中でも代表的な繊維は、こんぶに含まれるアルギン酸です。ところが、CL-と結合する繊維はみあたらないのです。捜しまわったあげく、やっと見つけたのがキトサンでした。
キチン・キトサンの約80% がキトサンです。キチンをアルカリで処理すると、アセチル基がはずれてアミノ基が露出しますが、このアミノ基にCL-が結合し、糞中に排出されるのです。図1 はアルギン酸とキキトサントサンの構造を示したものです。
食塩の中で血圧を上げているのは「塩素」
アルギン酸のC OO-の所にN a + が結合し、キトサンのN H3+の所にC L-がくっつくのです。ラットに3%の食塩を含むえさを与え、5%のアルギン酸と同じく5% のキトサンを与えたときの1日に排世されるN a + とC L-の量を調べてみました。アルギン酸を与えた場合のN a + とCL-の糞中排泄は、それぞれ、7. 00 +-1. 38 、1 .20+- 0 .40mg/ 日/ ラットでした。一方キトサンを与えた場合には、糞中N a + とCL-はそれぞれ1.38 +- 0.18 、9.60 +- 2.08mg/ 日/ ラットでした。
つまり予想通り、アルギン酸ではN a + が、キトサンではCL-が糞中に多く排池されているのです。次に3% の食塩を含むえさを正常ラットや血圧が上昇し、脳出血になり易いSH ラットに40 日間投与し、最高血圧の変動をみたのが図2 に示したものです。
高塩食投与で、正常及びSH ラット共に血圧が上昇しますが、いずれもアルギン酸食に較べて、キトサン食で血圧が低下しています。キトサン食ではCL-が糞中に多く出ているのですから、食塩の中でN a + よりもCL-が血圧を上げる犯人であることをこの成績は示していることになります。
N a + が犯人だと思っていたのに、これは意外な結果でした。では、CL-はどんな仕組みで血圧を上げているのでしょうか。血圧を上げる物質の1 つに、アンジオテンシンⅡがあります。このアンジオテンシンⅡをつくる酵素は、アンジオテンシン転換酵素と呼ばれています。
実は、塩素はこの酵素の活性を上げて、アンジオテンシンⅡを多くつくらせることで血圧を上げていたのです。
キチン・キトサンを食べると、食塩中の塩素(CL-)が腸から吸収されることなく、糞中に排泄され、その結果、アンジオテンシン転換酵素も活性化されず、アンジオテンシンⅡも多くならず、血圧も上昇しないという仕組みについては、「キトサンと血圧②」で詳しく述べることにしたいと思います。